【起業後の今 第6話】ー 新たな不動産の価値を求めて ー 

本稿は【起業後の今 第6話】になります。

起業までの道のり、「第5話」については下記ページをご覧ください。

■不動産コンサルティングから太陽光発電の投資へ

Brain Trust from The Sunという社名には、「太陽エネルギーのような無限の情熱で動くFPでありたい」「クライアントにとって信頼できる参謀ありたい」という願いを込めました。

そんな思いを持ち、元手の少ない起業当初は前職の延長でハウスメーカーの方と組んだりしながら様々な形の不動産コンサルティングを手がけました。

当時は東日本大震災の直後で金融機関も貸し渋る傾向にあり、建築する人が軒並み減っていたので建築コストが非常に安くなっていました。

今では想像もつかないくらい安価な金額で建てられたこともあって、2024年から創業当時2012年を振り返れば結果的にはいい不動産コンサルティングができました。

当時、国のエネルギー政策が一変しました。

2011年の福島第一原子力発電所の事故によって国は脱原発に大きく舵を切ることになり、その流れのなかでFIT(固定価格買い取り制度)を利用したのビジネスが世の中に出てきたのは周知のとおりです。

当時、ある社長から「大川くん、いま、電気をいくらで買っているか知っているか?」と聞かれ、分かりませんと正直に答えると、「いまは電力会社から20数円で買っているが、それを42円で売れる時代が来る」と教えてもらいました。

この一言がきっかけとなり、新たなビジネスとして太陽光発電に投資することにしたのです。

自らがリスクを取って投資しようと考えたのは、証券会社のときに経験があったからです。

証券会社の営業時代は、自分で取れないリスクを顧客に取ってもらい手数料という収入を得るわけですが、それで顧客に迷惑をかけるうことも多々ありました。自分でリスクを取りさえすれば、自分で責任を取ることができます。

「提案する商品が本当にいいと思っているのなら、あなたが買えばいいじゃないか」という意見に対して「私はお金がないので」というのでは、歯切れが悪いし説得力に欠きます。

金融商品を販売する営業は大なり小なり、そういった歯切れの悪い営業をしているわけです。

自分が投資する側に回ってリスクを取りさえすれば、リスクも取りますが、利益も取れます。

様々な業態の会社で働いてきたおかげで事前の調査能力が養われ、リスクを負う覚悟も生まれました。

ですから太陽光発電への投資は、自らがポジションをとるフェーズに入ったという意味で非常にいいタイミングだったと思います。

■太陽光ビジネスから地方創生へ

太陽光発電が普及する前であれば、地方の土地は場所によっては二束三文でしか売れず建物を建てても収益が見込めないので、固定資産税がかかるというマイナスの資産でした。

しかし、そのマイナスな資産に太陽光発電設備を設置し、電力会社の電線につなぐと、1kWh あたり42円で買い取ってくれるというのが当時の太陽光発電の投資の仕組みです。

そこには、再生可能エネルギーの普及を一気に進めたいという国の思惑があったからです。

そうして自社で投資して太陽光発電所を取得する一方で、そのための土地を借りたり購入して投資家に提案するという太陽光発電所の分譲事業も始めました。

太陽光発電パネルなど再生可能エネルギー設備の購入者を対象とした、減価償却資産の特別償却や税額控除につながる「グリーン投資減税」も追い風になり、太陽光発電の事業は一気に広まっていきました。

不動産コンサルティングだけをやっていたときは8千万円だった年商は、太陽光発電の分譲によって6億円まで成長し、会社としてもかなり実績が詰めました。

数年後は栄枯盛衰は世の常でFIT制度を利用した太陽光発電システムの分譲ビジネスは、悪徳業者による森林を伐採した乱開発や消費者に負担金が課されるなどの制度設計が問題しされ、数年前で終焉を迎えまえました。

私が取引をしていた太陽光発電システムの施工会社も破綻していまい、今では当社メンテナンス部隊を起ち上げて太陽光発電システムの草刈りやシステムの維持管理をする仕事しています。

このように、全ての事業は陳腐化していきます。

特にいまはインターネットやSNSで情報が一瞬で拡散する時代ですから、その情報をコントロールできる人間が有利であることは間違いありません。情報をいかに素早くキャッチするかということ。

社会情勢や法律の変化に対して常に対応いていないと、生き残れない時代だた考えています。

いま社会ががどういう方向に舵を切っているか、政治や経済の方針がどう変わるか我々経営者は常に注視しておく必要があると思います。

 

■小規模不動産特定共同事業法を学ぶ

太陽光発電の分譲事業に陰りが見えてきたとき、次の主力事業として考えたのが民泊や農泊といったインバウンドも含めた空き家再生事業でした。これはいま現在も最も力を入れている事業です。

資金を調達するにあたり、2017年から始まった小規模不動産特定共同事業法を活用することを目指しました。

小規模不動産特定共同事業法 は投資家から出資を募り、不動産取引から得られる収益を分配する事業この制度で空き家、空き店舗などの不動産を利用し、地域の不動産会社などが幅広く参入できるよう創設されました。

不動産投資には多額なお投資資金が必要です。

自社でリスクとリターンを完結するためには資金を銀行から借りるか、あるいは自分の手持ち資金を出すかですが、いざ創業歴の浅い不動産会社が不動産の購入資金を金融機関から借りようと思っても、何も後ろ盾がなければ借りることはできません。

審査の際に分譲の実績やそれまでの経験、目利きがどれくらいできるかとか、自己資金でいくらまで出せるかを聞かれます。

小規模不動産特定共同事業法に乗り出す前、アパートの分譲は自社で4棟ほど手がけましたが、そのときは地元の信用金庫が前職での不動産コンサルティングや太陽光発電システムの分譲の実績を見て貸してくれました。

このように不動産業は、金融機関と歩調を合わせないと活躍するのは難しい業種です。だから金融機関が貸し渋り始めると、潤沢な自己資金がないと不動産会社は物件を買う事ができなくなります。

私が、小規模不動産特定共同事業に興味を持った理由は金融引き締めの状態になったからです。一部の心無い不動産会社と銀行が起こした問題が発端です。

女性専用シェアハウス事業のトラブルで杜撰な融資をしていた地方銀行に指導が入り、信用金庫が反社会的勢力に投資用不動産向けの融資した疑いで行政処分を受けました。

不動産投資に過熱感があり、不動産会社と銀行が共謀して消費者に迷惑をかけたというのがその背景です。

そうした状況で、小規模不特定共同事業法は明らかな規制緩和で、手順を踏めば弊社のような中小企業でも新規事業で銀行以外の資金調達方法が手に入れられるチャンスでした。

小規模不特定共同事業は、1億円までしか集められない小規模1号と、SPC(特別目的会社)を作れば10億円まで集められ倒産隔離もできる小規模2号の2種類があります。

弊社では、金融機関と不動産会社が一緒になって職業的地位が高まるような取り組みをしたいという意向があったので、小規模1号だけでなく2号も視野に入れて登録申請する方針を固めました。

だけどいざ始めようと思っても、まだ前例がないのでどこから始めればいいか分かりません。そこで国交省に電話で問い合わせたり、東京都の専門機関に行って話を聞いたりして必要な情報を得ていきました。

そしてある程度の概要を掴んだうえで国交省のホームページから資料を引っ張ってきて条文を読み解いていったのですが、これがまた大変な作業した。

最初は、手続きは行政書士に依頼してハンコを捺すだけでいいかなと軽く考えていました。

しかし担当官から「大川さん、小規模不動産特定共同事業について分かっていないですよね? 何かあったときに処罰されるのは大川さんですよ。書類の中身を把握しておかないとまずくないですか?」と言われまして‥。その言葉は、初心を忘れかけていた私の胸に突き刺さりましたね。

会社としてある程度の実績を積み、呼べば銀行の担当者が来てくれたり、動かすお金が大きくなっていたことで、どこか横柄になっていた自分がいました。

しかしその言葉があったおかげで、情報を早く手に入れて勉強して新しい制度を有効利用していくことを繰り返すこと以外に、生き残ることはできないと再認識できました。

それで自分で書類を作成することを決め、国が出している実務手引書の基礎編、実務編やモデル約款を全部読み、しっかり内容を把握したうえで実際の登録に至ったのです。

■金融機関で唯一、融資に理解を示した銀行

しかしいざ登録したものの、できたばかりの制度で前例がないので、金融機関はなかなかノンリコースローン(責任財産限定特約付ローン)を融資してくれませんでした。

以前からある不動産特定共同法では1億円の資本金と9000万円の純資産がある会社でなければ登録できず、法定監査の3期分の提出が義務付けられていますが、その規模であれば銀行からの融資も容易です。

ただし我々のような小規模な会社では、なかなかそうはいきません。

脈のありそうな金融機関は片っ端からあたったのですが全てダメ。

信用金庫はそもそもノンリコースローンを知らない方、あるいはやったことがない方がほとんどで、投資銀行は一億円でノンリコースローンをするのは割に合わないということで貸してもらえず、地方銀行はサブプライムローン問題が世間を騒がせて以降、不動産物件はノンリコースローンを組んでいないという回答がほとんどでした。

それでもどうにかならないかと融資への道を模索するなかで、セミナーで出会ったある会社の部長から「もしかしたら、あの銀行ならば可能性があるかもしれない」と情報をいただいたのです。

結果的に唯一、小規模2号のSPCに関して理解を示してくれたのが東京の地方銀行で無事に融資していただくことができました。

セミナーを開催しなければ、融資に至らなかったわけですから、何ごとにもあきらめず挑戦し続けることで道は開けるのだと再認識しました。

2024年までにその銀行の融資で杉並区和泉、足立区千住龍田町、小平市学園東町、東村山市の物件計5棟を組成して4棟のイグジット(投資した資金の回収)に成功しました。

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