本稿は【起業までの道のり 第3話】になります。
起業までの道のり、「第2話」については下記ページをご覧ください。
■建築営業で不動産の有効活用提案を学ぶ
コスモ証券(現・岩井コスモ証券株式会社)からスターツ(現:スターツコーポレーション株式会社)へ転職した私は、市営地下鉄線・仲町台駅にある横浜支店に配属されました。
スターツは建設・不動産・管理事業を中心とした大手企業。
当時は区画整理事業が行われるエリアに出店し、法務局で土地の所有者を調べて建築営業マンを訪問させ、アパートやマンションの建築を受注するというビジネスを主に展開していました。
実際に私は不動産有効活用提案の仕事に携わり、税金と建築、不動産賃貸の知識をしっかりと叩き込まれました。
なぜなら簡単に言えば、不動産を取得する際にかかった費用を、家賃収入で返済するビジネスだからです。
私がいた建築部隊で建築した建物は、不動産部門の「ピタットハウス」で入居者を募集し、管理部門の「スターツアメニティ」で建物管理と入居者管理を行なっていました。
スターツがすごいのは、営業マンに建築だけでなく他の用途も提案させること。建築をしないのであれば「売買は?」「駐車場経営は?」と畳みかけるのです。
通常の建設会社であれば、利幅の薄い駐車場の造成工事は請け負いませんが、不動産管理部門があるスターツは駐車場を造成すれば、その管理業務を受託することができます。
そうすれば顧客との結びつきが強くなり、将来の売却や建築を受託できる可能性が高くなる。このようにスターツは、長期的な視点に立った不動産戦略を持っていました。
一般的に、土地の利用方法は以下の6つに分類されます。
①売る
②建てて貸す
③建てずに貸す
④(等価)交換する
⑤利用しない
⑥自分で使う
土地の所有者にはこのうちどの意向を持っているかを確認するわけですが、大概は「⑤利用しない」というケースがほとんど。
もし②の「建てて貸す」を考えていた場合は見積もりをお出しするわけですが、これは競合受注となってコンペに勝ち抜く必要が出てきます。
逆に言えば営業マンの提案によって顧客の心を動かすことができれば、競合の可能性は低くなります。
そのためには、建物価格や収支計画だけでなく、営業マンのコミュニケーション能力によってどれだけ顧客の懐へ入り込むかがカギになります。
しっかりと人間関係を構築し、相手の年齢や家族構成、親戚関係、取引業者、資産状況などの情報収集ができれば、提案の精度が飛躍的に向上するからです。
営業の仕事は「聞くこと」と言われるのは、まさにこの点にあります。
そして実際に受注がもらえたら、建物の契約、引き渡し、運営までをサポートするわけですが、その一連の流れを勉強できたのは後に大きく役立ちました。
ですから不動産業界における私のキャリアの根底にあるのは、一般的な不動産賃貸や売買の営業というよりはむしろ、地主に対する不動産コンサルティングであると言えます。
そのうえでスターツから求められたのは「仕事に対する情熱を持ち、人から好かれる魅力的な人間になるために努力する」こと。
当然ですが人は、嫌悪感を抱く相手に対しては率先してものごとを頼みませんからね。そんなスターツの教えは今でも私の大きな力となっていますが、転職当初は苦労の連続でした。
■地主を求めて飛び込み営業の日々
スターツでの初出勤日、面談時に支店長から「君は人相が悪い」と言われました。
今ならパワハラで訴えたら勝てそうな発言ですが、自分が証券会社でしてきたことを考えると妙に納得できたことを覚えています。
さて、最初の仕事は営業用の地図づくりです。
やることは新横浜の法務局に行き、自分の営業エリアの土地所有者を調べて住宅地図に書き込むという作業の繰り返し。私のほかにいた3名の新入社員も同様の作業をしていました。
最初に私が担当になったのは「新横浜」と「新吉田」のエリアで、地図をつくり終えたら証券会社と同じく飛び込み営業の毎日でした。
それ以外にも建設予定地の賃料相場のリサーチや周辺アパートの空室率のチェックなど、細かい実務も生じます。
飛び込み営業で話を聞いてくれる地主が見つかったら、次はどうすれば所有の土地を有効活用できるかを提案します。
そのエリアではどんな入居者が見込めてどのプランであれば入居率を高められるか、周りにはどんな物件があってどうすれば他社の物件と競合しなくて済むのかといった内容を総合的に加味し、クライアントの要望も含めて擦り合わせていくわけですね。
大変なのは話を聞いてくれる地主さんが見つかるまで、何十件、何百件と飛び込み営業する日々が続くこと。
やっとの思いで話を聞いてくれる地主が見つかったら、実際にその土地でどういう提案をすれば効果的であるかの調査が始まります。
話を聞いてくれる地主さんは同業他社の営業マンにも相談しているケースが多いので、そのコンペに勝たねばなりません。
理想を言えば、潜在ニーズを素早く察知したうえで競合他社が来る前に受注をもらうことです。
しかし実際にはアパートやマンションを建てるにあたって数千万の投資が必要になるため、証券会社時代のようにすぐに受注にはつながりませんでした。
そもそも最初に地主のコンサルティングを選んだのは、不動産仲介の仕事よりも奥が深いように感じたからです。
実際にはどちらの仕事も奥が深いということは後から分かるのですが、もう一つは単純にコンサルのほうが給料が良かったという理由もありました。
一般的に不動産コンサルティングの場合、建築の契約が決まると給料は一気に跳ね上がります。
それに当時から上場しておりセクショナリズムもしっかりしていたので、社会人としての基礎をしっかり学べたのもよかったと思いますね。
■罵声が飛び交う地獄の営業会議
一方で営業マンへのあたりがきつく、特に受注が取れる前の営業会議は恐ろしさが半端ではありませんでした。
私は新卒と違って社会人経験があり、生意気にも宅建やFPを持っている。当然、即戦力として期待されるも結果が出せず、そんな中途採用には容赦ない言葉が浴びせられます。
「犬小屋でいいから受注してこい!」
「人工透析で全身の血液を入れ換えてこい!」
これは大げさでも何でもなく、支店長は一字一句たがわず私にこう言いました。まあ、ひどい扱いですよね。
私ほどではありませんが、他の未受注者も営業会議では相当にやり込められており、いつも営業会議は地獄絵図でした。
正直、精神的には証券会社のときよりも追い詰められていたと思います。
ただ、わずか2年半で証券会社を辞めた私に逃げるという選択肢はありませんでした。
「ここで逃げたら完全に負け犬になる」と自分に言い聞かせ、歯を食い縛りながら頑張ったのです。
そんなある日、支店の方針で唐突に担当エリアの変更がありました。
それまで担当エリアを真剣に回っていた私は「配置換えしないでほしい」と泣きつきましたが、一個人の意見が通るはずもなく、その変更は滞りなく実行されました。
周囲の新入社員は最初から「自分たちの意見が通るわけがない」と思っていたようで、特に何も言いませんでしたね。
しかし私の懸念に反し、それからすぐに念願の初受注をもらうことになります。初めての受注は横浜市営地下鉄ブルーライン・仲町台駅から徒歩9分の場所で2×4造1ルーム四世帯。そこはスターツの寮として借り上げられました。
■心に残る、会心の初契約
その土地は更地だったため、私は初回の訪問時に対応してくださった施主の母親に対して「固定資産税が大変でしょうから駐車場経営をされてみてはいかがですか?」と提案しました。
すると「息子の土地だから私では判断できません」言われたので、「次回は駐車場の収支計画書を提出します」と約束してその日は帰りました。
収支計画書の提出日には母親と息子である施主も同席し、こちらは私のほかにチームリーダーが同席しました。
しかし駐車場の収支計画があまり良くなかったため、息子さんは難色を示します。
すると百戦錬磨のチームリーダーはすかさず
「アパートを建築すれば手残り収入は倍になりますよ。計画をお持ちしましょうか?」と切り返したのです。
チームリーダーは、累計契約棟数50件超の頼れるベテラン営業マンでした。
その帰り道、私が社用車を運転していると、流れが変わったことを敏感に察知していたチームリーダーは「大川お前、契約できるかもしれないぞ」と心強い声をかけてくれました。
その後はすぐに設計士にプランニングをしてもらい、積算をかけて収支計画の作成です。私には初めての経験で何をしていいか分かりませんでしたが、チームリーダーが丁寧に教えてくれたので助かりました。
そのかいもあって最終的には提案書にご納得いただき、いざ契約です。
仲町台の事務所にお越しいただき、食事会を開いて、最後に支店長が値引きの話をして調印日を決めました。
しかし土壇場で「他社と見積もり合わせをしたい」という親せきからの横やりが。まずいなと思った矢先、お施主さんは「気持ちよくお願いしたいから、そんなことはしなくていい」と、親せきの助言を跳ねのけてくれたのです。
そのとき私は、この人のために一生懸命に頑張ろうと心に誓いました。数多くの契約を経験した今でも、このときのことを忘れることはできません。
今思い出しても感謝の気持ちでいっぱいになる、最高の契約でした。初回訪問から契約まで一月足らずの、スピード感のある受注でもありました。
施主さんとも年齢が近く、確か私が27歳でお施主さんが32歳だったと思います。
■自己成長を積むために出した結論
こうして私は初の契約をいただくことができたのですが、その道のりは遠く険しく、初受注までに約1年の歳月を要しました。だけどそれでも、他の新卒の新入社員よりは早かったですね。
それからは営業会議で攻められることはなくなり、事務所での扱いも変わりました。
そのあとすぐに私は6千万円、5千万円と立て続けに土地の売買を決めることになります。特に5千万円の売買は売り主と買い主、両方とも私の訪問先でまとめることができました。
しかしスターツは不動産部門と建築部門が分かれており、クライアントを見つけたとしても、建築部門の私には売買契約を担当させてもらえません。
これが改善できないかと会社に掛け合いましたが、セクショナリズムの壁は厚く、私が契約業務をすることはありませんでした。
このままだと入居者の提案をするので賃貸は勉強できるが、不動産売買について学ぶことができない。そこで私はこの件があってから近い将来、不動産会社で売買を勉強したいと考えるようになりました。
その後もペット対応マンションやテラスハウス(物件同士が壁を共有している2階建てや3階建ての住居。敷地に共有部分がない連棟型集合住宅のこと。)などを受注し、その後しばらくはプレッシャーから解放されるものの、しばらく経つとまたプレッシャーをかけられるという繰り返し。
証券会社よりは確かな手応えを感じていましたが、このまま建築の営業で終わりたくないとも思っていました。
入社から4年が過ぎようとしていた頃、私はグループ会社のスターツデベロップメントに配属されたました。
いわゆる不動産開発の仕入れの仕事です。収益物件の担当と聞かされていたので念願の不動産ファンドの仕事につけると喜んだのもつかの間、いざフタを開けてみると私の担当は建売部門でした。
スターツのような堅実な会社は仕入れ価格も安いのですが、売主からすれば価格は非常に大きな要素です。価格で負けているとほかの要素で勝負するのは難しく、仕入れができなければ経験が積めないし成長もありません。
実際、このままスターツで仕入れの仕事を続けても物件を購入することは不可能だと感じていました。それで次第に私は証券会社時代のように腐りはじめ、漫画喫茶などで時間を潰すのが日課になっていきます。
そんな日々のなかで、たくさんの経験を積むにはスターツのような大きな会社よりも、小規模ながら自由に動ける会社のほうが自分には向いていると感じ、再び転職することを決意しました。
余談ですが、私が横浜営業所でお世話になった支店長はいま、本社の社長を務めています。
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